アラサー腐女子のヲタnote

BLを中心に、アニメ・漫画・小説・映画などの感想。 ※ネタバレ有り

小説【『プリズン・ドクター』岩井 圭也】あらすじとネタバレ感想

プリズン・ドクター (幻冬舎文庫)

 

 

『プリズン・ドクター』岩井 圭也

あらすじ

奨学金免除の為しぶしぶ刑務所の医者になった是永史郎。患者にナメられ助手に怒られ、憂鬱な日々を送る。そんなある日の夜、自殺を予告した受刑者が変死した。胸を掻きむしった痕、覚せい剤の使用歴。これは自殺か、病死か?「朝までに死因を特定せよ!」所長命令を受け、史郎は美人研究員・有島に検査を依頼するが―手に汗握る医療ミステリ。

プリズン・ドクター (幻冬舎文庫) | 岩井 圭也 |本 | 通販 | Amazon

 

購入のきっかけ

岩井圭也さんは『永遠についての証明』で知りました。

(この作品は彼のデビュー作ですが、読んだのは最近です。)

”数学”がテーマで、文学少女(少女という年齢ではない)の私にしては珍しいチョイスでしたが、とても感動しました。

ライトノベルではない通常の文学作品は私の読解力が追いつかないのですが、難しくない文体で読みやすかったのも良かったです。

 

そこで岩井圭也さんの別の作品も読みたいと思い、購入したのが『プリズン・ドクター 』です。

『プリズン・ドクター』を選んだのは、Amazonのレビュー件数が1番多かったからです。

それと、”矯正医官(刑務所の医者)”というテーマが珍しく、どんな仕事なのか興味を持ったからです。

 

オススメ度

★★★★☆(3.5)

一言で言うと、とても良かったです。

決して楽しいお話ではないけど、想定外な展開の連続で感動しました。

ラストはうるっときて泣きそうになりました。

その割に評価が普通なのは、わかりやすくハッピーエンドを迎えるような物語ではないから。

物語は淡々と進んでいき、いろいろと考えさせられる作品です。

けれど最後はホッコリしたし、決してバッドエンドというわけではありません。

刑務所の中の話に興味のある方は、是非読んでみて下さい。

 

レビュー(※ネタバレ有り)

最初は主人公の是永史郎が、嫌々刑務所で働いていて、読んでるこっちも鬱々とした気分になりました。

患者は犯罪者ばかりなので診察時に平気で嘘をつくし、それを嘘と見抜くか本当だと信じるか。

塀の外の病院ではそんなことに労力を割く必要はないわけで、大変な仕事だなと思いました。

それでも仕事には前向きで真摯に取り組んでいるところは好印象でした。

それなのに、保健助手である刑務官の滝川は、史郎が「これは本当かもしれない」と詳しく話を聞こうとすると、「どうせ嘘だと思いますよ」と冷たい。

確かに嘘も多いけど、見落としてしまったら命に関わるかもしれないし、立場上信じることも大事だなと思いました。

 

転機となったのは、作田の病名を見抜いた時でした。

作田は病気のせいでまともな仕事に就けず、犯罪で生計を立てていました。

もしも病気じゃなかったら、犯罪に手を染めることはなかったのかもしれないですよね。

作田の病名がわかって作田が泣いたところでは、思わず貰い泣きしそうになりました。

それ以降作田は史郎に感謝して、仮釈放の時にも史郎にお礼を言い、前向きな気持ちで刑務所を出て行きます。

作田の周囲に再び犯罪という魔の手が忍び寄らないことを祈りたくなりました。

 

続いて、刑務所の中で亡くなった大江。

彼は昔薬物で逮捕された過去があるけど、地元を離れて真面目に働いていました。

ひょんなことから昔の仲間と再会し、断れずに1度だけ犯罪の手助けをしたところ、再び逮捕されてしまいました。

糖尿病を患っていた大江は、昔の薬物の回し打ちが原因で、32歳の若さで突然死します。

そして犯罪者ということから家族に遺骨を引き取ってもらえず、刑務所で供養されました。

薬物からは手を引いていたし、たった1度仲間の犯罪に荷担しただけで刑務所送りになり、そして刑務所の中で亡くなって……。

確かに犯罪者ではありますが、犯罪者の側に寄り添って見ると、可哀想だなと思ってしまいました。

 

そして、佐々原のおじいちゃんもまた可哀想。

娘の朋子の気持ちも分からなくはないけど、何よりおじいちゃん自身が娘の行動の意図を分かった上で、犯罪者として刑務所に行く。

だからこそ、朋子も罪の意識が消えなくて、結局は仮釈放の身元引受人になったわけです。

何とか親子関係が修復しそうなので、ホッとしました。

 

佐々原の件もそうですが、史郎も認知症の母親の介護に苦労している様子が描かれていて、何だか他人事には思えませんでした。

私もいつか親の介護をしなければいけない時が来るし、親が認知症になったら……と思いながら読み進めていました。

史郎が母親を大事にしていることは凄く伝わってきたし、だからこそ母親の秘密にはとても驚かされました。

実父である松木の一言以外、伏線はなかったので、寝耳に水って感じでした。

史郎が可哀想で、ここでそんな衝撃の事実はいらない、やめてくれと思ってしまいました。

 

クライマックスの事件は、刑務官で保健助手でもある滝川の起こした事件です。

最初は慇懃な態度で史郎に厳しかった滝川ですが、史郎が事件(病気に関する謎)を解決する度に態度が軟化していきます。

滝川は凄く真面目で刑務官に相応しい人柄で、史郎に協力的になっていく様を見て、滝川を好意的に感じるようになっていきました。

だから、滝川だけは犯罪に手を染めてほしくなかった。

ある意味真面目過ぎたと言うべきか、被害者遺族でありながら刑務官を務めるというのは、どんなに辛いことでしょう。

毎日毎日犯罪者と接していて、反省している人ばかりではないし、そりゃあ自ら罰を与えたくなってもおかしくないとも思います。

それでも実直な滝川だからこそ、そちら側に堕ちてほしくなかったと思わずにはいられません。

”正義に酔いしれた人間には、自分が犯した罪状さえ見えていない”。

犯罪まで行かなくても、確かにこういうことってありますよね。

自分が正しいと信じて疑わない人間は、他人の意見を断固として聞き入れない、みたいな。

 

ラストの滝川からの手紙は、何度読んでも泣けます。

史郎に犯罪を暴かれた時の滝川は、罪は認めても自分の行いは間違っていないという信念を貫いていました。

それが史郎へ送った手紙の中では、自分の罪が”私的処罰”であったと、考えを改めています。

そして、”先生に矯正いただいた”という言葉は、涙なしには読めません。

滝川はこれから罪を償わなければいけないけれど、彼も長らく苦しんだのだから、償った後は少しでも晴れやかな人生を送ってほしいと思いました。

それから史郎には、滝川が思う史郎らしい矯正医官の在り方(病だけでなく、罪への治療)を実践していってほしいと思いました。

 

最後に

私はハッピーエンドの物語が好きですが、この物語はハッピーとかバッドとか、そういう次元の話ではないように思います。

永遠についての証明』を読んだ時にも思いましたが、岩井圭也先生の作品は、登場人物1人1人についていろんなことを感じ、考えさせられます。

文章はとても読みやすいのに、内容は奥が深い。

読んだことがない方は是非読んでみてほしいです。

そして私は、岩井先生の別の作品も読んでみたいと思いました。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

▼小説関連の過去記事▼

ota-katu.hateblo.jp